令和の新しい時代が始まりましたね。ここしばらくは、上皇・上皇后両陛下、天皇皇后両陛下の人となりについて話題がもちきりです。
そんな中、上皇后美智子様が心に残っていると紹介されて、今また話題になっている、新見南吉による物語「でんでんむしのかなしみ」があります。今回はその絵本について解説します。
でんでんむしのかなしみとは
「でんでんむしのかなしみ」とは、「ごんきづね」で知られる新見南吉が1935年に書き上げた童話。当時「デンデンムシノカナシミ」を含めカタカナ童話を50篇書き上げ発表したそうですが、無名ということで出版には至っていないそう。現在見ることができるのは、1950年に出版された「驢馬のびっこ」に収録された作品である。
でんでんむしのかなしみのあらすじは?
ある日、でんでん虫(カタツムリ)は自分の殻の中に『悲しみ』がいっぱい詰まっていることに気付き、もう生きていけないと嘆きます。そこで別のでんでん虫にその話をすると「あなたばかりではありません。私の背中にも悲しみはいっぱいです。」と言われます。また別のでんでん虫も同じ事を言われます。こうして友達を順々に訪ねていきますが、どのでんでん虫も同じように言います。そして最初のでんでん虫は「悲しみは誰でも持っている。私は私の悲しみを堪えていかなきゃならない」と気づき、嘆くのをやめました。
というお話。
上皇后・美智子様が講演で紹介
1998年、現在の上皇后陛下である美智子様は、インドのニューデリーで開催された国際児童図書評議会(IBBY)の世界大会に招かれ、ビデオテープによる基調講演をされました。講演のテーマは、「子供の本を通しての平和ー子供時代の読書の思い出ー」です。
その際に上皇后様は、子どものときに一匹のでんでん虫の話を聞かせてもらったことがあったと言われ、そのお話のもとはこれではないかと思われる話として、新美南吉の「でんでん虫のかなしみ」について紹介されました。
4歳~7歳の頃に聞いたというお話は、聞いた当初はまだ大きな悲しみというのを知らず、嘆くのをやめたことで簡単に「ああよかった」と、じっと考えることはなかったとおっしゃいます。
しかしこのお話は、その後幾度となく、記憶の中によみがえってくることとなったそうです。少し大きくなると、「ああよかった」だけでは済まされなくなり、生きていくということは楽なことではないという不安を感じることもあったそうです。
戦争という苦難の時代を生き、また、明治以降初の民間出身のお后様として天皇家に嫁がれ、平成に入ってからもマスコミのバッシングなどで声が出なくなり…。その歩んでこられた日々は、私たちには計り知れない苦悩があったのだと思います。そんな折々に、それぞれ自分自身の苦悩を堪えなければ、と耐えられてたと思うと、頭が下がります。そんな美智子様に寄り添われていた作品が、「でんでんむしのかなしみ」です。
対象年齢と子どもの感想は?
現在「でんでんむしのかなしみ」は、様々な出版社で出され、それぞれ味わい深い挿絵とともに楽しむことができます。
「でんでんむしのかなしみ」
- 作:新見南吉
- 絵:野見山暁治
- 出版社:星の環会
- 発行:2016年
「あめ玉/でんでんむしのかなしみ」
- 作:新見南吉
- 絵:後藤範行
- 出版社:岩崎書店
- 発行:2016年
大日本図書版は「一年生詩集の序・里の春、山の春・木の祭り・でんでんむし」と同時収録で小学校中学年から、としています。
「でんでんむしのかなしみ」
- 作:新見南吉
- 絵:かみやしん
- 出版社:大日本図書
- 発行:1999年
また、電子書籍で「でんでんむしのかなしみ」を公開している「PICTIO」というサイトでは、対象年齢を「読んであげるなら:4歳から。自分で読むなら:5歳から」としています。
こうしてみると、話も短く、簡単なので読むこと自体は「4~5歳から」できると思います。
しかし、内容の奥深さについて理解するには「小学校中学年以降」といったところでしょうか。
ちなみにうちの子に読んでみると…
「でんでんむしのかなしみ」
- 作:新見南吉
- 絵:鈴木 靖将
- 出版社:新樹社
- 発行:2016年
わが子たちの反応
「〇〇であります。」とか、言い回しが変なの。
最後みんなで仲良く行けばよかったのに。
ふーん…。
といった感想でした。どの子も多分あんまりよくわかってない印象です。これが美智子様のときのように、当初はそんなに感じないまでも、あとになって心に響いてくるようになればいいのですが…わが子たち…。
それにしてもうちの6歳児の、「みんなで仲良くいけばいいのに」、というのは、この本の本質を突いてはいるかな、と思いました。結局、どんなに一緒にいたり話をしたりしていても、一人なことに変わらない、一人一人のカナシミに耐えろ、という話なのでね…。でも、それが子どもにはまだ早かったよう。ページを経ても、何も変わらない関係性が、ちょっと他と違って子どもには物足らないのでしょう。
このみんながかなしみを抱いているという切なさは、子どもより大人のほうがわかる作品なのだと思います。
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この「でんでんむしのかなしみ」の新見南吉の著作権は消滅しているので、ネット上でも公開されています。
文章だけなら、「青空文庫」というサイトで無料で読むことができます。初出当初のカタカナ表記なので読みづらいかもしれませんが、新見南吉が書きあげた当初の雰囲気で読むことができます。
また、「PICTIO」というサイトでは、全6ページの形式でダウンロードをして読むことができます。無料です。
ほかに、個人サイトやyoutubeなどで様々に公開されているので、自分に合った「でんでんむしのかなしみ」を探すのも良いでしょう。
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