トミー・ウンゲラー(アンゲラー)のプロフィールと経歴!絵本の代表作も解説!

三にんぐみ 作家

2019年2月、トミー・ウンゲラーさんの訃報が飛び込んできました。アイルランドにて87歳の生涯を閉じたそうです。

彼は、絵本作家の顔を持ちながら、大人向けの風刺画やポップアートなども含む幅広い分野で活躍されました。代表作「すてきな三にんぐみ」は、スタイリッシュな画面に、ちょっとした皮肉も混じり、とても洗練された印象を受けます。彼の作品たちはどのような背景から生まれたのか。今回、彼の生涯について調べてみたので紹介します。

トミー・ウンゲラーとは

トミー・ウンゲラー(1931-2019)はフランス生まれの児童文学作家、イラストレーターです。発音によりトミー・アンゲラー、トミ・ウンゲラーとも表記されます。

本名は渡米後に改名し、Jean-Thomas Ungererといい、通称をTomi Ungererといいます。

児童文学作家という側面を持つ一方、ベトナム戦争に反対する政治的なポスターや大人向けのエロティックな作品まで幅広く生み出しています。

生い立ちは?

アルザス地方上原淳也さんによる写真ACからの写真

トミー・ウンゲラーは1931年11月28日にフランスのアルザス地方に生まれました。アルザス地方は歴史的に長い間フランスとドイツの間で帰属を争っていた地域です。

父は時計職人でしたが、トミーが3歳のときに亡くなります。父の死後、彼の母親は同じアルザスのコルマール近くの実家に戻り、トミーは兄、2人の姉とともに祖母のもとで子ども時代を過ごしました。

1939年になると第二次世界大戦が始まり、コルマールは激しい戦闘が行われ、トミーも危険を感じながら過ごしていたそうです。翌年にはフランスがドイツに降伏。ドイツ式の教育が行われるようになりました。そのためトミーの少年時代には、学校ではナチス礼賛、家庭ではフランス愛国者、外で友達と遊ぶときはアルザス人として振る舞うという、複雑なアイデンティティのなか過ごしたそうです。

終戦後、アルザスはフランスに再び帰属しますが、フランス式の教育となり、トミーたちはそれまで学んできたドイツ語だけでなく、アルザス語まで禁止されてしまいました。トミーは地質学者になりたかったそうですが、この混乱で受験に失敗、大学に入り損ねたため、ヨーロッパじゅうを旅します。地質を探ったり、様々なものをデッサンしたりして回ったそうです。

アメリカでイラストレーターとして成功へ、どんな作品?

旅のあとは一時期、軍に所属しアルジェリアで過ごしていたトミーですが、胸膜炎になり、除隊します。その後、市立の美術学校に通ったのち、広告の仕事などをします。当時暮らしていたストラスブールでは、アメリカから多くの留学生が来ていました。その中に、のちほど妻になるナンシーがおり、彼らと交流するなか、ポップアートやジャズなどアメリカの文化を知り、アメリカに憧れるようになりました。そして1956年、たった60ドルと画材、原稿を持ってアメリカへ渡ります。

トミーは、恋人のナンシーのもとへ転がり込みやがて結婚、永住権を手にします。イラストレーターを目指し、売り込みをかけた当初は生活が苦しかったものの、当時のニューヨークは雑誌や広告の黄金期。トミーのイラストは徐々に認められ、「エスクァイア」「ホリデー」など様々な雑誌や広告で風刺画などのイラストを描きました。

子供向け絵本のほか、ベトナム戦争批判など政治的なものから、エロティックを全面に押し出した作品まで、多く手がけました。その表現はキツイと言われますが、多くの人に影響を与えました。

人種差別を作品化したウンゲラーの有名なポスター

アメリカのほかにも、ドイツやスイスの出版社からも本を出し、なかでも、100曲を超えるドイツの民謡曲にイラストをつけたものはドイツで大ベストセラーになりました。

結婚は?

トミーウンゲラーは、3度の結婚をしています。

最初の結婚はフランスのストラスブールで出会い、アメリカで結婚したナンシー。

1960年代初頭にはナンシーと別れ、二度目の結婚をしています。相手はミリアムといい、彼女からクリスマスプレゼントにブリキの船をもらったことから、トミーはおもちゃコレクターとして目覚めます。ミリアムとの間には、娘が一人生まれました。このときの娘のために作られたのが、代表作「すてきな三にんぐみ」です。

その後、彼女とも別れ、1970年には3度目の結婚をしています。3度目の妻はイヴォンヌといい、1971年、トミーは彼女とともにカナダへ移住します。その後アイルランドへ移り、娘と2人の息子の3人の子どもをもうけ、生涯をともにしました。

カナダからアイルランド移住

ぶた

テレビの台頭とともに、雑誌の勢いが落ちてきたのと機を同じくして、トミーはニューヨーク生活に嫌気がさしていました。そして、1971年、イヴォンヌとカナダのノヴァスコシアに移住します。そこは、ニューヨーク時代にバカンス用に廃屋を買ったところでした。辺鄙な地域で、二人は農場で家畜を飼い、自給自足の生活をします。同時に、絵本やイラストなどの作品は発表し続けていましたが、1974年の『マッチ売りの少女アルメット』を最後に、児童向け絵本は20年近く創作を休止し、以降は大人向け書籍やイラストに注力していきます。

カナダで5年ほど暮らしたのち、友人との会話でアイルランドが挙がり、イヴォンヌのお腹にいた子どもへの教育を考え、アイルランドへ移住します。

アイルランドでは農場で生活をしながら、フランスの中央集権政治を批判したり、フランスとドイツの友好に務めたり、ヨーロッパを行き来しながら活躍。晩年までそうして暮らしていました。1997年には児童書制作も再開し、1998年には国際アンデルセン賞画家賞 も受賞しました。

美術館について

2007年には故郷のフランス、ストラスブールにトミー・ウンゲラー美術館が建ちました。1970年代からトミーの展覧会がたびたび行われており、コレクションしていたおもちゃを市に寄贈したりしたことから、この地にオープンしました。

ここでは8000点に及ぶ貴重なデザインを見ることができます。

すてきな三にんぐみほか、子ども向け絵本の代表作は?

1957年の初めての絵本「メロップス一家、空へ」以降、様々な絵本を手がけています。

すてきな三にんぐみ

1961年に2番めの妻との娘に向けて描かれた「The Three Robbers」。日本では「すてきな三にんぐみ」として1969年に出版され、今や世界中で愛されています。


すてきな三にんぐみの詳細は以下ページをご参照ください。

すてきな三にんぐみ(絵本)のあらすじは?怖い?対象年齢・感想や解釈も紹介!
絵本「すてきな三にんぐみ」について解説します。

へびのクリクター

「Crictor 」(1958)の日本語訳「へびのクリクター」は1974年出版。

「へびのクリクター」

  • 作・絵:トミー・ウンゲラー
  • 訳:中野完二
  • 出版社: 文化出版局
  • 発行:1974年

エミールくんがんばる

「emiel 」(1960)、日本語訳「エミールくんがんばる」は1975年。

「エミールくんがんばる

  • 作・絵:トミー・ウンゲラー
  • 訳:今江 祥智
  • 出版社: 文化出版局 
  • 発行:1975年

こうもりのルーファスくん

「Rufus」(1961)の日本語訳は1994年に萩谷琴子さんによる訳のものが岩崎書店から出ていますが、現在はBL出版から、「すてきな三にんぐみ」と同じ今江祥智さん訳のものも出ています。

「こうもりのルーファスくん」

  • 作・絵:トミー・ウンゲラー
  • 訳:今江祥智
  • 出版社: BL出版 
  • 発行:2011年

月おとこ

「月おとこ」(1966)。日本語訳は1978年。

「月おとこ」

  • 作・絵:トミー・ウンゲラー
  • 訳: たむらりゅういちあそうくみ
  • 出版社: 評論社 
  • 発行:1978年

 

トミー・アンゲラーまとめ

トミーさんの幅広い作品には、トミーさん自身に様々な側面があったことがわかりました。絵本を含め、機会があればまたトミーさんの作品を味わいたいと思います!

 

参考文献:芸術新潮 2009年8月号 「トミ・ウンゲラーのおかしな世界」

 

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